無農薬栽培や減農薬栽培を目指す農家、家庭菜園家にとって必須アイテムと言っても過言ではない木酢液。
木酢液は、単に殺虫成分、殺菌成分が含まれているだけの化学農薬のような殺菌剤や殺虫剤ではありません。
そもそも木酢液を規定の500倍以上で散布すると木酢液に含まれる酸による殺菌作用はほとんどなくなります。
ではなぜ、木酢液を散布すると、病気や害虫が発生しにくくなるのでしょうか。
この記事では、木酢液が病害虫を防除する仕組みについてじっくり解説していきたいと思います。
そもそも「木酢液ってなに?」と思われる方は、まず下記の記事を読んでください。
共生微生物のパワーで病原菌を撃退する
共生微生物の力で身を守る植物
人間を含めて動物は血液の中の白血球などが、病原菌や異物を排除する免疫機能を持っていますが、植物には免疫機能はありません。
植物が病原菌や異物を排除する仕組みの一つとして、アルカロイド類やフェノール類などの抗菌・抗虫物質を植物体内で作ること、がありますが、一番重要な仕組みは、根や茎葉の表面、周囲に有用微生物を増やし、その有用微生物の力で病原菌の繁殖を防ぐ仕組みです。
有用微生物とは、糸状菌、放線菌、乳酸菌、酵母菌など、死んで酸化していない有機物のみに寄生する微生物です。
有用微生物についてもっと詳しく知りたい方は下記を参考にしてください。
これら有用微生物が有機物を消化(分解・合成)する際には、高熱を出さず、加水分解酵素を分泌し、甘い香りを発します。
これは有用微生物が作った発酵産物です。
有用微生物は中性からアルカリ性を好み、病原菌を排除する力を持っています。
なので、酒や味噌は腐らないというわけですね。
一方、病原菌の微生物は主に生きた酸化した有機物や亜硝酸化した有機物に寄生します。
作物の体内に菌糸を伸ばして侵入した時が病気の発生です。
酸性体質を好み、有機物を分解する時に高熱を出し、悪臭の硫化水素、炭化水素、アンモニアガス、インドールなどの有毒ガスを放ちます。
これを腐敗菌と呼び、腐敗するとさらに病害虫を呼び込みます。
また、悪玉の病原菌の多くは、アルカリ性に弱い性質があります。
植物は、根や茎葉から光合成産物である糖やアミノ酸やホルモン、ビタミンなどを分泌し、有用微生物を根圏(根圏微生物)や葉面(葉面微生物)で養っています。
植物が根や葉から分泌する量は、光合成産物の10%とも言われています。
有用微生物はこの栄養分で増え、病原菌を排除し、土壌中の栄養分を吸収しやすいように分解・合成して植物に与えています。
化学農薬による防除では、病原菌だけでなく有用微生物も全て殺傷してしまいます。
そのためすぐに病原菌がはびこるようになってしまい、ますます強い化学農薬が必要となってしまうのです。
無農薬有機栽培では、この有用微生物を増やしていくことが最優先です。
有用微生物を増やして病原菌を抑える木酢液
殺菌作用がほとんどない、500倍に薄めた木酢液を定期散布すると病気が発生しにくくなるのは、有用微生物が増えるからです。
木酢液の原液は強酸性なので、微生物は生きられず全くの無菌状態ですが、200〜400倍以上の希釈から微生物が繁殖するようになります。
木酢液に含まれる有機酸類やアルコール、中性物質、フェノール類の各種の植物生成成分が互いに相乗してエサになり、有用微生物が葉面、あるいは根圏に優先的に増殖します。
木酢液がボカシ肥や堆肥を促進したり、土壌の団粒化を進めるのもこの仕組みです。
有用微生物は、病原菌を寄せつけない抗菌物質を分泌し、病原菌を撃退します。
また、木酢液の有機酸はミネラル分と結合しているため、空気に触れるとアルカリ性に変化します。
アルカリ性を好む有用微生物はますます増えて、アルカリ性を嫌う病原菌は、有用微生物が分泌する抗菌物質や、この弱酸性からアルカリ性へのpH変化によって殺菌死滅するのです。
木酢液は病原菌や害虫を殺傷する農薬でなくて、この有用微生物を増やすエサです。
ですから、木酢液500〜1000倍の木酢液を7〜10日に1回、定期的に散布することが重要になってくるわけですね。
特に雨が降って有用微生物が流れて少なくなり、病原菌の活動が活発になる、雨上がりに散布することがコツです。
健全生育を促し、作物の抵抗性を強化
体内の新陳代謝を促進し健全生育に
作物が、病気になったり害虫に侵されたりするのは、その作物が栄養不足や栄養過多、根や茎葉の何らかの障害、体内の各種ビタミン、ホルモンなどのバランスが崩れ、体質が酸化した時です。
これは人間と同じで、病原菌や害虫はそのような生育の作物をエサとして好んで、体内に侵入したり食害したりするのです。
作物は光合成で作った糖・デンプンを地下から吸収したアンモニアや硝酸態の窒素と結合(窒素同化)してアミノ酸を作り、さらにアミノ酸を数個結合してタンパク質を作って生長していきます。
ところが肥料を過剰に施されると、光合成産物が足りなくなり、スムーズにアミノ酸やタンパク質が合成されなくなり、窒素成分が亜硝酸や遊離アミノ酸として茎葉内に残って、酸性体質になります。
病原菌や害虫はこのような弱って酸性体質になったものから侵入します。
病原菌や害虫はこの体内にたまった未消化の窒素成分が好きなので、健全で若々しい時は、ストレスもなく、病気や虫の被害も受けません。
化学肥料による無機栄養栽培は肥料バランス、栄養バランスが崩れやすいのです。
成分が硫酸や塩酸などの酸性物質と結合しているため酸性体質にもなりやすく、どうしても病害虫が発生しやすくなり、防除が不可欠になります。
有用微生物たっぷりの堆肥やボカシ肥で有機栽培すると、この傾向は極めて少なくなります。
窒素過多になると作物の葉はくすんだ濃緑色になり垂れてきます。
こうした作物に木酢液を葉面散布すると、葉色が淡く正常になり葉が立ってきます。
これは、木酢液を葉面散布すると、表面から浸透し、体内で過剰になった未消化窒素成分(亜硝酸と遊離アミノ酸)と木酢液に含まれる有機酸とが結合して、アミノ酸やタンパク質に合成されるからです。
合成されたタンパク質は、細胞を丈夫にして病害虫に侵されにくい健全な生育を促します。
窒素過剰生育を改善したい場合は、200〜300倍の濃い木酢液を数回散布します。
抗菌物質も増え、クチクラ層も強化
健全な生育になると、葉色が爽やかになるとともに、テリが出てきて葉がやや固くなってゴワゴワしてきます。
これは、葉で作られる糖と有機酸が結合し、葉の表面の防護組織であるクチクラ層が厚くまた固くなるからです。
クチクラ層はワックス層とも呼ばれ、発達すると病原菌も侵入しにくく、害虫も食害しにくくなります。
また、有機酸に刺激を受けると、作物の抗菌・抗虫物質のアルカイドやフェノール類の合成も活発になるため、いっそう病気や害虫に侵されにくくなります。
さらに木酢液は、腐敗系病原菌が発生させるアンモニアガス、メタンガス、硫化水素などを排除する働きもあり、それ目当てに寄ってくる害虫も寄り付かなくなります。
おわりに
このように、木酢液が病気や害虫を防除する仕組みは、木酢液が有用微生物のエサとなり、有用微生物を増やし、作物全体が病気や害虫に強くなるからで、病害虫を毒で殺して排除する化学農薬とは、仕組みが大きく違います。
「有用微生物のエサ」という感覚を持ち合わせていると7〜10日の定期的な散布というのも理解しやすいですね。
木酢液を効果的に使うことで、作物が健全な生育となるので、収穫量も増えて品質も高まります。
木酢液をうまく使って、病害虫に強い作物を育てましょう!
それでは実際に木酢液を使っていく際には、どんな木酢液を選べば良いのでしょうか。
下記に詳しくまとめた記事がありますので参考にしてください。